もう一五年以上前のことですが、私が身近に体験したことです。弊法人に、ある大学の先生の紹介でひとりの中国人の女性が面接に来ました。
「会計の仕事をやりたい!」ということだったのですが、当時でも、びっくりするくらいこの女性は質素な服装をしていました。私がいくつか質問をした中で、「どこに住んでいるのですか」と尋ねたときに、「江東区に住んでいます。一部屋に八人で暮らしているんです」という答えが返ってきたのです。私はそれを聞いて「えっ、そんなことがあるのか」と、衝撃をうけました。しかし、それがそのころ在日する中国人の大方の現実だったのでですから、彼女のそんな生活も中国の留学生の現実でした。特別、彼女が貧しかったわけではないのです。とても優秀な女性でしたし、すぐに採用したのですが、まじめなこの女性はうちに勤めながら大学院に行き、のちに在日の中国人として第一号の税理士にもなりました。
税理士になってからも、一O年ほどうちの事務所で働き、そのあとに独立して、上海と東京に二つの事務所を持ち、今では経営者として大活躍をしています。
ところで、うちで働くと決まったときに、たまたま私がもっていたワンルームマンシヨンを貸しましたが、そうこうしているうちに定期的にお給料が入ってくるようになると、彼女はもっと大きなマンションを探して、そこに住みはじめました。そして、会計事務所の経営者となってからは、ルイ・ヴィトンなどのブランド品を身につけるなど、服装までが大きく変わってきました。彼女の変化を通して、私はまさに経済とは何かを実感しました。シュンペーターが言った通りの展開です。
もう一つ違う話をします。
「不景気になったら恋愛させなさい」と真面目に冗談を言う経済の専門家もいます。消費が増えるからです。定年で家に入りジャージーで一日中いると、何もいりません。散歩も食事も寝るときも極端に言えば、これ一着ですんでしまいます。年を取ってから散歩に出ると俳佃と言われ、老夫婦が三人で歩いていると、これは介護とみられるそうですから(笑)。
年寄りのデートは、はとパスが舞台という話も聞きました。おじいさんがおばあさんにはとパスをおごるんだそうです。ここが恋愛の場かどうかわかりませんが、少なくともジャージーは着ません。おしゃれします。家に閉じこもっているお年寄りを、屋外に引っ張り出しただけで消費が増えます。企業はモノが売れますが、一方、環境に負荷がかかります。
クドクド言いましたが、要するに人々は豊かになってくるとモノを消費しますし、どんどん無駄遣いをするようになる。また、それは飛ぴ火していくということを知ってもらいたいのです。
たとえば、みなさんは仕事をするときは、背広を着ていますね。もし、無駄なものをなくして環境を優先させて、ビジネスのときに背広の着用をしなくてもいいとなったらどうなるでしょうか。
モノを買わなくなる。具体的に言えば、Tシャツとパンツが二セットもあれば、それほど困らずに暮らせると思います。それをユニクロなどのカジュアルショップで洋服を買え一万円で十分におつりがきますから、経済的でもある。
たしかに環境を守る行動ではありますが、企業にとっては、たまったものではありません。みんながこんな暮らしを始めてしまったら、経済が活性化しなくなるからです。さらに言えば、おしゃれも一切しないと決めれば、夏場はTシャツ、真冬だったらセーターの一枚も買えば、ズボンは毎日同じで十分に暮らせます。シャンプーも、ドラッグストアで一番安いシャンプーを買ってきて使えば、十分にそれですみます。
余談になりますが、作家の五木寛之さんみたいに三カ月も髪を洗わないと、シャンプーはいらないですよね。五木寛之さんはお金がなくてやっているわけではなくて、髪を洗わないとハゲないという法則があって実行しているらしいのですが……〈笑〉。
また、トイレも環境に優しいことを最優先させようとなれば、今みたいな水洗トイレにしなければいいだけのことです。昔のようにくみ取り式に戻して、家の庭を畑にして、それを肥料にして育てれば、化学肥料も必要なくなる。
私のおやじが昔、糞尿を肥やしにして大根や野菜を植えたりして収穫していました。家庭菜園です。子供のころ、それを見ていましたが、そういうことをやれば自給自足もでき、地球にもやさしいわけです。だけど、経済発展を前提にした資本主義社会はそれでは成り立ちません。